日本生活指導学会理事有志声明「私たちは、教育勅語の教材としての使用を容認する閣議決定を深く憂慮し、教育勅語の実効化・復活に反対します」

私たちは、教育勅語の教材としての使用を容認する閣議決定を深く憂慮し、教育勅語の実効化・復活に反対します

 

2017年3月31日、内閣は初鹿明博衆議院議員の「教育勅語の根本理念に関する質問主意書」に対する「衆議院議員初鹿明博提出教育勅語の根本理念に関する質問に対する答弁書」を決定しました。「教育勅語の本文をそのまま教育に用いることは憲法上認められない」との質問に対して、内閣は、1948年6月19日の衆参両院における教育勅語失効に関する決議を認識した上で、「学校において、教育に関する勅語を我が国の教育の唯一の根本とするような指導を行うことは不適切であると考えているが、憲法や教育基本法等に反しないような形で教育に関する勅語を教材として用いることまでは否定されることではないと考えている。」と答弁しました。

この答弁は、第一に、明らかに矛盾を内包する見解によってなされています。それは、教育勅語(以下、勅語と略記)が日本国憲法や教育基本法に反するものであるとしながら、憲法や教育基本法に反しないような形で勅語を教材として用いることまでは否定されることではないとしているからです。

第二に、内閣がこのような決議を行うことは、単に教材使用の次元にとどまらず、国家への従属・一体化を強く求める勅語の復活を図ろうとするものと理解せざるを得ません。現に、義家弘介文部科学副大臣は、4月7日の衆議院内閣委員会で勅語を朝礼等の場で朗読することを否定しない旨の答弁を行っています。

私たちは、その成立経緯・目的・内容からみて、日本国憲法及び教育基本法の下でなされる公教育において勅語を道徳教育その他の教育諸活動の中で道徳的価値観形成という名分のもとに教材として用いることは不適切であると考えます。上記答弁書は、勅語を「唯一の根本とするような指導を行うことは不適切である」としつつも、教育活動の根本の一つにそれをおくことを容認し、そうすることで教育現場等への勅語の導入を側面から促す機能さえもつものです。

さらに、政府のそのような行為は、我が国と社会の民主主義的発展を求めて、国権の最高機関たる国会の場で勅語の失効決議をした総意、すなわち国民主権と平和希求、そして個の尊厳を基本とする日本国憲法の理念を著しく損なうものであり、これまで勅語に対してとってきた政府の態度が大きく変容したと理解せざるを得ない事態であると考えます。

私たちは、学際的に基本的人権の尊重と平和希求の見地から、生活主体の自由・自立に資する援助と指導等の原理やありかたを探究してきています。この立場から、勅語の成立経緯、およびそれが近代日本の歴史、とりわけ教育の歴史的経緯において果してきた客観的事実を私たちは重視し、国民主権の下では、天皇がその赤子(せきし)として生きる臣民にのぞむ価値を意思表示した勅語は教育の指導原理となる余地はないと考えます。他方、我が国の歴史の民主的な前進点からのみ学校において勅語がそうした事実を知るための資料として学習されることは必要であると考えます。

私たちは、子どもから高齢者に至るまでのすべての人々の自由で自立的な主体形成を核として生活指導の探究のために研究的コミュニティを創造してきました。この見地から、以上述べてきたように、今回の閣議決定およびその後の政府の対応に対して、私たちは深く憂慮します。

本学会の理事有志は、これまでの国会及び政府が確認してきた勅語の指導原理的性格を一切認めないとの見解を再度確認し徹底することを、政府及び関係諸所に強く呼びかけます。

2017年4月21日

日本生活指導学会理事有志

 

【資料】

資料1 初鹿明博衆議院議員質問主意書

平成二十九年三月二十一日提出 質問第一四四号

教育勅語の根本理念に関する質問主意書 提出者 初鹿明博

資料2 上記質問に対する政府答弁書

平成二十九年三月三十一日 内閣衆質一九三第一四四号

衆議院議員初鹿明博君提出教育勅語の根本理念に関する質問に対する答弁書

いずれも「衆議院第193回国会 質問の一覧」より

同上URL=http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/menu_m.htm

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